
ABMとは?大手企業を攻略する進め方6ステップと支援事例【ラクスル社・アンドパッド社】
「リードは増えたのに、大手企業の商談が一向に生まれない」 「大手に1社入れたものの、その部署だけで取引が止まっている」
こうした悩みの解決策としてよく挙がるのが、ABM(アカウントベースドマーケティング)です。ただ、ABMの解説記事の多くは、概念やツールの説明で終わっています。実際に大手企業の組織図を読み、キーマンに手紙を書き、電話をかける「実行」の部分は、あまり語られていません。
私たちEmpowerXは、大手企業の開拓を「営業代表」として実行する立場で、ラクスルやアンドパッドなどのABMを支援してきました。本記事では、その現場で見えてきた進め方と、つまずきやすいポイントをお伝えします。
ABM(アカウントベースドマーケティング)とは
ABMとは、売上への影響が大きい企業(アカウント)を先に決め、その企業に合わせてマーケティングと営業を集中させる手法です。「アカウント型営業」「アカウント型マーケティング」とも呼ばれます。
従来のBtoBマーケティングは、広告や展示会で広く見込み客を集め、その中から商談につながりそうな人を絞り込む「漏斗(ファネル)型」が主流でした。ABMはその逆で、最初に狙う企業を決めてから、その企業の中で接点を広げていきます。
比較項目 | 従来のリード型 | ABM |
|---|---|---|
出発点 | 集まった見込み客(個人) | 狙う企業(組織) |
考え方 | 広く集めて絞り込む | 絞った企業を深く攻略する |
主な接点 | 広告・展示会・問い合わせ | 手紙・電話・SNS・紹介など個別接点 |
追う指標 | リード数・商談数 | キーマン到達・部門横展開・取引額 |
向いている商材 | 単価が低め、検討が短い | 単価が高い、関わる部署が多い |
ABMが向いている企業のチェックリスト
次のうち3つ以上当てはまれば、ABMを検討する価値があります。
1社あたりの取引額が大きく、数十社を取れれば事業計画が成り立つ
導入すると、複数の部署やグループ会社に広げられる商材である
決裁に、現場・部門長・情報システム部門など複数の人が関わる
問い合わせを待っていても、狙いたい大手からは連絡が来ない
既存顧客の中に、まだ取引のない部署や拠点が多く残っている
反対に、単価が低く、1人の担当者がその場で決められる商材では、ABMの手間に見合わないことが多いです。
大手企業を攻略するABMの進め方6ステップ
ABMは大きく2つのフェーズに分かれます。前半の3ステップで「最初の1件」をつくり、後半の3ステップでその1件を全社・グループへ広げます。
STEP1:狙う領域の仮説を立て、複数並行で検証する
「売上100億円以上の製造業」のような条件だけで企業リストを作っても、どの業界・業態が本当に刺さるかは分かりません。まずは有望そうな領域を複数挙げ、並行してアプローチし、反応を比べます。
ここで大事なのは、仮説を検証できるだけの「量」を確保することです。数件のアプローチでは、うまくいかなかった理由が「領域の選び方」なのか「伝え方」なのか判断できません。
STEP2:組織図を読み、キーマンと決裁者を特定する
狙う企業が決まったら、その企業の組織図を読み解きます。どの部署が課題を持っていて、誰が予算を持ち、誰が最終的に決めるのか。大手企業では、この3者が別人であることがほとんどです。
公開情報(IR資料、プレスリリース、登壇記事、採用ページなど)で当たりをつけ、実際の会話で確かめていきます。キーマンの見つけ方は、キーマン特定のやり方|決裁者へ最短でアプローチする方法で詳しく解説しています。
STEP3:電話・手紙・SNSを組み合わせて接点をつくる
大手企業の決裁者には、代表電話やメールだけではなかなか届きません。相手の立場と組織の特徴に合わせて、手紙、電話、DM、SNS、既存取引先からの紹介などを組み合わせます。
「手紙で課題仮説を伝え、数日後に電話でフォローする」「SNSで発信内容に反応してから面談を打診する」など、チャネル同士をつなげて設計するのがポイントです。SNSを使った接点づくりは、ソーシャルセリングとは?も参考にしてください。
STEP4:最初の1件を成功事例として言語化する
最初の1件が決まったら、それを「なぜ決まったのか」まで言語化します。どの部署の、どんな課題に、どんな切り口で提案したら響いたのか。この整理が、次の横展開の材料になります。
STEP5:隣の部署・グループ会社へ横展開する
大手企業の場合、1部署での成功事例は、社内で最も説得力のある提案材料になります。「隣の部署ではこういう成果が出ています」という話は、外部の事例よりもはるかに届きやすいからです。導入部署の担当者に協力してもらい、別部署やグループ会社への紹介につなげます。
STEP6:勝ちパターンを営業の型にして再現する
横展開で効いたトーク、資料、アプローチの順番を型としてまとめ、誰が担当しても再現できる状態にします。ここまでできて初めて、ABMが一部の優秀な営業担当者に依存しない仕組みになります。
支援事例1:ラクスル ― 半期目標230%を達成し、複数社で全社導入
ラクスル株式会社のエンタープライズ事業統括部では、新しい業種・業態の開拓を進めていました。未開拓の領域では、どこに勝ち筋があるかを見極めるために、仮説を素早く検証できるだけの実行量が必要でした。
私たちはまず、不動産業界の中でもデベロッパー、ハウスメーカー、売買仲介、賃貸仲介という複数のセグメントに並行してアプローチしました。反応を比べながら短期間で検証を繰り返し、最も有望な領域として「売買仲介」を特定しました(STEP1)。
その後は、ターゲット企業の組織図を読み込み、キーマンと意思決定者を特定しました(STEP2)。アプローチ手段は決め打ちせず、相手の組織に合わせて電話、手紙、DMを使い分けています(STEP3)。複数の部署にまたがって数十人規模のヒアリングを重ね、キーマン像の解像度を上げていきました。
ラクスル様とは週次の定例会とSlackで日々やりとりし、現場で得た情報をすぐに戦略へ戻す体制を取りました。最初の成功事例ができた後は、それを他部署・他企業へ横展開し(STEP4・5)、有効だったトークや資料を再現可能な型としてまとめています(STEP6)。
結果として、半期目標230%の達成に加え、大手企業への導入と、複数社での全社導入につながりました。支援はその後、複数の部署からのテストマーケティング依頼にも広がっています。
担当した私たちが一番大事だと感じたのは、量をこなすこと自体ではなく、「この活動で何を確かめるのか」という仮説を持って動くことでした。
→ 事例の詳細:ラクスル株式会社の支援事例
支援事例2:アンドパッド ― 新領域の「勝ち筋」を、膨大な実行量から見つける
建設DXプラットフォーム「ANDPAD」を提供する株式会社アンドパッドでは、3名体制でインサイドセールスを立ち上げていました。事業が広がるにつれ、新しい領域の開拓と市場分析を同時に進める必要が出てきましたが、自社の人員だけでは手が回らない状態でした。新しい業界の業務内容への理解が足りないことも課題でした。
私たちはBDR(新規開拓型インサイドセールス)とABMの実行を担いました。ターゲット企業をリサーチして接点を整理し、架電を通じて業界や顧客の情報を集め、その情報から仮説を立て直す、というPDCAを高速で回しています。
アンドパッド様からは、とにかく多くのPDCAを回す必要があったという声をいただきました。膨大なデータを短期間で集められたことで、新領域への理解が効率よく深まり、商談化と顧客開拓の足がかりを築くことができました。
この事例が示しているのは、ABMのSTEP1〜2は机上の分析だけでは終わらないということです。現場で相手と話して初めて分かる業務の実態や組織の事情が、ターゲット選定の精度を大きく左右します。
→ 事例の詳細:新規市場開拓を加速するABM支援
ABMが日本企業で失敗しやすい4つの理由と回避策
1. マーケ・インサイドセールス・営業のKPIがばらばら
マーケティングはリード数、インサイドセールスは商談数、営業は受注額と、部門ごとに追う数字が違うと、同じ企業を攻略しているはずなのに動きがかみ合いません。 回避策:3部門で共通のターゲット企業リストを持ち、「キーマン到達数」「部門横展開数」など、アカウント単位の共通指標を置きます。
2. 検証に必要な量が足りず、仮説が当たったか分からない
大手企業を狙うからといって、最初から数社に絞り込みすぎると、うまくいかなかったときに原因が分かりません。 回避策:ラクスルの事例のように、最初は複数の領域に並行してアプローチし、反応を比べてから絞り込みます。
3. キーマンに届かず、現場担当者で止まる
窓口の担当者とは話せても、予算や決裁を持つ人に届かないまま案件が止まる、というケースは非常に多いです。 回避策:組織図から決裁ルートを描き、現場担当者を味方につけながら、手紙や紹介など別ルートでも上位者との接点をつくります。
4. 数か月で「効果がない」と判断してしまう
大手企業の検討期間は長く、最初の1件が決まるまでに時間がかかります。そこで施策を止めると、横展開のフェーズに入る前に終わってしまいます。 回避策:最初の数か月は受注数ではなく、キーマン到達数や商談の質など、途中の指標で進み具合を判断します。
ABMの成果を測るKPI
ABMでは、リード数や商談数だけを見ていると、進み具合が正しく判断できません。次のように、段階ごとに指標を分けて追うのがおすすめです。
段階 | 主なKPIの例 |
|---|---|
接点づくり | ターゲット企業のうち接点を持てた割合、キーマン・決裁者への到達数 |
商談化 | 商談化した企業数、商談に同席した部署・役職の数 |
受注 | 受注企業数、1社あたりの取引額 |
横展開 | 取引のある部署・拠点・グループ会社の数、全社導入に至った企業数 |
ABMツールやMA・CRMは、これらの指標を見える化するのに役立ちます。ただし、指標とターゲットリストが決まっていないままツールを入れると、入力されないまま形だけになりがちです。ツールを選ぶ前に、運用の設計を先に固めてください。
よくある質問
Q. ABMとデマンドジェネレーションは何が違いますか? A. デマンドジェネレーションは、広く見込み客を集めて育てる考え方です。ABMは、狙う企業を先に決めて深く攻略する考え方です。どちらか一方ではなく、中小企業向けはデマンドジェネレーション、大手向けはABM、と使い分ける企業も多いです。
Q. ターゲット企業は何社くらいに絞ればよいですか? A. 体制や商材によって変わるため、一律の正解はありません。最初は複数の領域を並行して検証し、反応が良かった領域の中で、深く攻略する企業を絞り込むのがおすすめです。
Q. 成果が出るまでどのくらいかかりますか? A. 大手企業は検討期間が長いため、最初の受注までに数か月以上かかることは珍しくありません。途中の段階ではキーマン到達数や商談の質で進み具合を確認し、短期で判断しないことが大切です。
Q. 自社にリソースがなくてもABMはできますか? A. ターゲット選定やキーマン特定、接点づくりの実行部分は、外部のパートナーに任せることもできます。アンドパッドの事例のように、自社は戦略を決め、実行と検証を外部と分担する形が現実的です。
Q. インサイドセールスはABMでどんな役割を担いますか? A. 問い合わせへの対応だけでなく、ターゲット企業へのリサーチ、キーマンの特定、個別のアプローチを担います。現場で得た情報をマーケティングと営業に戻す「情報のハブ」としての役割も大きくなります。
まとめ:ABMは「最初の1件」と「その後の横展開」で決まる
ABMは、狙う企業を決めて深く攻略する手法です。ただし成果を分けるのは、概念やツールではなく、次の2つの実行です。
仮説を検証できる量でアプローチし、キーマンに届いて「最初の1件」をつくること
その1件を言語化し、隣の部署やグループ会社へ広げていくこと
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